アラスカ出張レポート01

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今回の出張の目的は、取引のある漁師と実際に会ってやりとりをすることで、相手の現状や漁の現状を理解すること。同時に私個人の課題としては、アラスカ州或いはアメリカという国の「食」を一面でも見ること。

期間:2005年7月27日(水)~8月3日(水)
場所:アメリカ アラスカ州 シトカ、ケチカン  オレゴン州 ポートランド、コーブ

FISH BAR発見  空港にて

成田を発ちアメリカはワシントン州シアトルへ。ここで乗り換えてアラスカ州シトカへ行く。シアトルのタコマ国際空港のロビーは滑走路に面しており、全面が ガラスで自然光が射す広々とした空間。売店、本屋、飲食店などがあり、待ち時間を潰す旅行者にとって快適な場所であった。飲食店は軽食が中心だったが、そ の中で魚専門の店が2軒。魚専門といってもフィッシュ&チップス、またはそれに類するメニューで、本格的な魚料理というわけではないが、日本に魚専門の ファーストフードがあるか、ということを考えると日本とはまた少し違う角度で魚が日常に溶け込んでいる印象を受けた。

期間限定 サーモン加工場  アラスカにて

SPC(SEAFOOD PRODUCERS COOPERATIVE)の見学

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シトカにある組合の加工場で、サーモンの加工(真空パックのフィレ)を見学した。加工の各工程はベルトコンベアーやその他機械の組み合わせの流れ作業、日本の加工場と基本的なシステムは変わらないように見えた。
この加工場では、身質のよいものはフィレの状態にしてすぐにパックし、あまり質の良くないものは骨を除去してからパックし、パッケージ自体も違うものに していた。こういったグレードの違いによって、当然価格も、そして消費者の層も変わってくるが、さまざまな需要に対応できるということがいえる。


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ブルース・ゴア氏にこの組合の冷凍庫で管理している、彼の釣ったサーモンを見せていただいた。自らトーツからCOHO(銀鮭)やCHUM(白鮭)を取り出 し、表面の氷を溶かして下さったのだが、本当に綺麗な魚体には惚れ惚れした。完璧な血抜きと謳うだけあり一切汚れのない身は勿論のこと、銀色に輝く皮目に は傷もなく…当然日本では何回も見ているし、やはり美しいと思ってはいたが、釣った本人が誇らしげに見せてくれるとなるとまた格別である。


ところで、この加工場の壁に掲げてあった一言が印象的だった。
-REMEMBER- THE NEXT INSPECTOR IS THE CUSTOMER
(忘れないで!一番身近な監視役はお客様です)
まさにその通りで、この意識は常に持つことが重要であると思った。

ALASKA GENERAL SEAFOODSの見学

ケチカンにあるサーモン加工場を見学した。5月から9月の第一週まで機能している、まさに期間限定の工場。ここでは生と缶詰の両方を扱っている。1シーズンに2000万lb(約910万kg)のサーモンを扱っているということだった。
サーモンの種類は主にPINK(樺太鱒)、CHUM(白鮭)、SOCKEYE(紅鮭)で、この工場ではPINK(樺太鱒)は缶詰に加工し、その約60%をイギリスに輸出している。CHUM(白鮭)はスペインでの需要が高いらしい。
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ここ2年間は、アラスカ全体においてPINK(樺太鱒)の漁獲量が多 く、この工場の責任者は供給過剰を心配しているようだ。反対に、需要の高いCHUM(白鮭)、SOCKEYE(紅鮭)は不足気味で、自然を相手にすることの難しさを感じた。
また、この工場では、いくらと筋子も扱っている。輸出先は、日本。技術指導のために日本からスタッフが来ていた。いくらの需要は高まり、反対に筋子の需要は減少しているということであった。

アラスカの海そして漁

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例年は沖でブルース・ゴア氏の船団が漁をしているシトカを訪れた。しかし今年はシトカ沖にCOHO(銀鮭)が少なく、もっと北の海域で漁をしている ため、残念ながらブルース・ゴア氏の船団によるトロール漁を見ることは出来なかった。
その代わりに水上タクシーで、沖に出ている一般的な漁船・漁法をみることになり、トロール漁と、刺し網漁を間近で見ることが出来た。
トロール漁とは、アラスカで古くから行われてきた伝統的な漁法で、1~2人乗りの小型漁船を利用し、釣り糸に多くの釣り針や人工ルアーをつけて行うも の。網による漁とは異なり、アラスカの商業サーモン漁の中で最も効率が悪く、その漁獲量は全体の10%未満に過ぎないということである。
トロール船は、動いているかどうか一見すると判断できないような遅いスピードで動いていた。1尾1尾サーモンが水揚げされる様子を見ることが出来たが、ブルース・ゴア氏の漁法を聞いて想像していたよりも、ずっと荒っぽい作業であった。
ブルース・ゴア氏の船団も同じくトロール漁であるが、釣れたサーモンを1尾ずつ丁寧にルアーから外し、すぐに締めて血抜きをし、かなり手間をかけてい る。そのため一回の漁での水揚げ量は一般的なトロール漁よりもかなり少ないという。実際、漁獲量は今回見たトロール船の3分の1ということである。


刺し網漁とは、アラスカサーモン総漁獲量の大部分を占める、多くの漁師が取り組む漁法。海中の魚群の経路に網を張って、サーモンの頭が網目にかかるのを待つというもの。一度網にかかった魚は決して逃れられずに捕獲される。
私たちが見ている間にも、サーモンは次々と水揚げされていた。網目から逃れられないというのがよく理解できた。それはつまり魚に大変なストレスを与えているということでもある。

ブルース・ゴア氏の「私の漁でやらないことを、全て見ることが出来たね。」という一言がとても印象的。彼はサーモンに如何にストレスを与えずに漁をする か、ということを第一に考えている。魚にストレスを与えないことが、おいしさにつながるからである。トロール漁という同じ漁法でも魚の扱いにより、やはり 質に違いが出るということ、その手間・苦労を厭わない点がブルース・ゴアブランドを支えているということを実感した。

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アラスカを訪れて驚いたことのひとつに、「ブルース・ゴア氏の知名度」がある。私も日本で「こだわりの漁師」として彼を紹介しているのの、現地での実際の 知名度や評価はどの程度なのか正直わからなかった。しかし、ブルース・ゴア氏と直接関係のない人々―例えばシトカ沖で漁をしていた人々、ALASKA GENERAL SEAFOODSの工場責任者、ケチカンの町で出会った人など―にも彼の名前と漁法は知られていた。前述した通り、彼の漁法は技術、効率、手間や金銭面か らも現実的には容易に真似できるものではない。しかし、アラスカにおける「理想の漁」であることは確かなようである。

スーパーマーケットに見るアメリカ人の食

WHOLE FOODS MARKET

自然食スーパー。一言で表現するとしたら、これが一番的確だろうか。
ポートランドで視察したスーパーマーケットのうちの1軒。有機野菜を始めこだわりのある食材を扱っている。以下にWHOLE FOODS MARKETの概念を紹介する。

私たちの 約束・義務

  • 私たちは、私たちが売るすべての製品について、一つ一つ慎重に価値を見極めます。
  • 私たちは、人工の防腐剤・着色料・香料・甘味料・水素化された油脂が使用されていない食品を特色とします。
  • 私たちは、食品の審査に多大なる情熱を傾け、それを(お客様と)互いに分かち合うことに喜びを感じます。
  • 私たちは、取り扱う食品が新鮮で、健康によく、また安全であることをお約束します。
  • 私たちは、有機的に栽培された食品を広く捜し求め、また促進します。
  • 私たちは、健康と幸福を支える食品と栄養食品を提供します。

魚介類についても、防腐剤や硫酸塩を用いたものは扱わず、世界中から品質の高い商品を見つけ出しているということであった。スモークサーモンなどはMSC認証の製品も見ることができた。

一般的スーパーマーケット

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ごくごく普通のスーパーマーケットも視察した。いわゆるアメリカのイメージそのもの―私個人的なものかもしれないが―で、店も商品のサイズも全体的に日本のものよりかなり大き い。野菜や肉、魚介類等の生鮮品は当然扱っているが、インスタント食品や冷凍食品の種類はかなり豊富で幅を利かせていた。上記のWHOLE FOODS MARKETと比較すると、正反対の印象。
どちらの方が良いとか悪いとかいうことは一概には言えないが、しかし極端であることに間違いはない。この2種類のスーパーマーケットに現在のアメリカの食を見た気がした。

出張を終えて

自然食スーパーが注目されるように、現在アメリカでは養殖よりも天然の水産物の需要が高まっていると聞いた。そういったことからもアラスカの水産物には注 目が集まっているという。人々の、食に対する意識が向上しているのは確かであるし、それは日本においても同様である。しかしその反面、興味・関心を持ち追 求する人と、そうでない人との格差は広がっていると感じる。
私は水産仲卸という立場を生かして日本の食と人を少しでも豊かにできたらと思っている。そのためにも、こだわりと誇りを持って品質の高いものを扱いたい が、限定的ではなく、様々な選択肢と正しい情報を提供していきたい。今回の出張のように自分の目で確かめること、感じることも大切にしていこうと思う。