三陸式リアス気仙沼湾 -汽水の営みを育む水山養殖場-

春爛漫
 早春、東北ではまだ雪が舞っている。訪れたその日も大雪に見舞われることになる。この時期、海の中では一足先に春が 訪れる。水面の温度がグーンと下がると、重くなった海水が沈み、海底から栄養塩類の豊富な海水が湧き上がる。そこへ、雪解け水が川から下って森の恵を運ん でくる。陽ざしの伸びた太陽光で光合成が活発になり植物プランクトンが一気に増えてくる。何と水の色が緑色なのだ。生命体で満ちあふれた水山養殖所の汽水 域はまさに春爛漫である。
気仙沼湾の森と川と海
 気仙沼湾は遠方漁業の基地として有名だが牡蠣、帆立貝などの養殖漁場としても優れている。ここでは貝を育てるため、餌や肥料を与えることは一切しない。その秘密は、川の上流域の森林にあることがわかった。
森は海の恋人」植樹祭
 豊かな雪解け水を運び込む大川。その上流の室根山に、毎年広葉樹の苗木が植続けられている。気仙沼湾の汽水は、牡蠣の養殖をしている漁民を中心に守られ、育てられている。
入江の奧に水山養殖所
 気仙沼湾から唐桑半島向かう途中の入江に潜む水山養殖場。目を疑うほどの景観に息を呑む。湖のような錯覚。春の、どか雪。早春、東風に乗って舞い降りてくる春雪のことを沖上げという。まさにこの日は大雪の一日。
大自然の素晴らしい環境の中で牡蠣、帆立貝が育まれていることに驚く。でも、もっと驚いたことはこの環境は自然に維持されていたものでなく多くの人達の手によって守り続けられていることだった。年月を重ね、その思いが貝本来の味を蘇らせたのかも知れない。
カキの育成、種牡蠣
 成熟したカキはお盆が近づいた頃、一斉に放精、放卵を開始する。その数は、海が白濁するほど。受精したラーバ(幼生)は植物プランクトンを食べ成長する。ラーバは何かに付着する性質がある。
カキの生殖巣の発育には積算温度といって、春から夏にかけて上昇してくる水温の積み重ねが必要。石巻湾の夏は、暖流が支配するため高水温になる。もうひとつは、カキの餌となる植物プランクトンの発生に必要な養分を北上川が運んでくるからだ。
無菌の汽水域で育てる
 稚貝は、筏からロープで鈴なり状に吊されて育成される。また、ネットに移されたカキは、少し丸みをおびて育つよう だ。水揚げされたカキは、生け簀に移される。老廃物もなくなり、身が落ち着いてくる。カキの殻をよく観ると、年輪のような節がある。これは一潮(約14 日)ごとに一節殻が大きく育つらしい。